「大手町洋館」を会場に、2022年7月1日・2日の2日間、マーケットイベントが開催されました。その名もずばり「洋館にて」。レポートをかねて、企画者の岩本歩弓さんにも感想をうかがってきました。
MINAMOさんのお花 昨年10月に内覧会を開催させていただいた大手町洋館(詳しくはこちら)。内覧会では洋館の建築を見ていただく趣旨だったので、お掃除こそしたものの、基本はありのままの状態でした。
対して今回の「洋館にて」は、マーケット形式。応接間/キッチン/書斎といったそれぞれの部屋に、古本や花、ナチュラルワインに野菜、コーヒー、焼き菓子、そしてアロマなど市内の11店舗が入り、各部屋の特徴を生かしながら設えてくださいました。朗読会や香りのワークショップなど、五感に響く催しが行われていたのも印象的。
キッチンにはBISTRO YUIGAさん オヨヨ書林せせらぎ通り店さんは応接間 緑が美しい縁側はper groceryさんの量り売り 開け放たれた窓から風が抜け、書棚に本が入り、花が飾られ、珈琲を点てる香りが漂い、庭の緑を愛ながらワインを飲む人もあり…。
長い間使われずにいた洋館が、瑞々しさを取り戻したかのよう。内覧会とはまた違った光景が、この2日間展開されていました。照明もほとんど使わず、クーラーはなく扇風機のみ。昭和初期のような環境ながら、「意外と涼しいわねぇ」とおしゃってくださるご来場者の皆様には感謝です。
PHYTO soixante-deuxさん Qure aromablendさんの調香体験 BISTRO YUIGAの焼き菓子 blanket cafeさんの珈琲 立派な建物ほど、残りにくいから
ここからは、「洋館にて」の発起人の一人であり、乙女の金沢を主催する岩本歩弓さんとの後日のおしゃべりから。岩本さんは金澤町家研究会のイベント「町家巡遊」の企画にも携わり、町家などの歴史的建造物の現状にも通じておられます。
「あの界隈(大手町・尾張町)って、ちょこちょこ洋館が残っていたりするから、気にはなっていたんです。私の周りは建物好きの人が多いから皆日々チェックしていて、『入れる機会があったら入りたいなぁ』とか『壊されると困る』とか勝手に思いながら、各々自主パトロールしていて(笑)。
なので大手町の洋館も、辺りを通るときは気にかけていたのだけど、ある日突然動き出したから、どうなるんだろうと楽しみにしていました。」
大手町洋館の外観 Photo by Nik van der Giesen 「洋館も、町家も、“立派なところほど残りづらい”という面がありますよね。大きいと家賃も高くなるから借り手がつきにくいし、維持するのは持ち主が大変。結果、壊されてしまうという。
『町家巡遊』でもこれまでたくさん町家を見せていただいてきているので、『今年はあの建物も壊された』という話を聞いては、ショックを受けています。
そんな中、以前の町家巡遊で元魚網店だった大きな町家で『活用法を考えながらイベントをする』ということをしてみたんです。入り口では野菜を売って、一階はカフェで、2階は作家さんの工房で…なんてイメージしながら部屋ごとに違う使い方をして、図面と合わせて紹介したり。そしたらその後本当に、あの建物に借り手さんがついて。現在はカフェとレストランと宿とで、シェアして使っていらっしゃるんです。
イベントが直接のきっかけだったかは定かではありませんが、公開することで内部の様子もわかるし、そもそも『ここに在る』ということを知ってもらえる。メディアで紹介されれば、気にかけてくれる人も増える。歴史的な建物でイベントを行うことには、そういった効果もあるんじゃないかなと思います」
Photo by Nik van der Giesen 天然素材できている建物は、掃除すると“生き返る”
「大手町洋館の中に入ったのは、内覧会(金沢R不動産主催)のときが初めてです。その時は単純に『照明がかわいい』とか、いち内覧者としてディテールなどを楽しんでいました。
『あの洋館、イベントで使えないかなぁ』という発想は、お店をしている友人達と別件のイベント会場を探しているときの会話でポロっと出たアイディアで。小津さんにちらりと聞いてみたら『今なら使えるよ』と。
『借り手さんがついたらもう一生使えない場所だから、絶対やりたいね!何かしよう!』と盛り上がって。それで急遽、洋館に興味ありそうな知人達に声をかけて開催することになりました。名前もそのまま『洋館にて』で。(笑)」
Photo by Nik van der Giesen 「イベント開催前に、洋館のお掃除をしたんです。床を掃いたり水拭きしたり。そしたら建物がすごく“生き生き”して。特に木でつくられている建物って、水拭きすると“生き返る”感じがしますよね。
それぞれ店舗の配置は、皆さんの希望を聞いたりしながら決めました。結果としてどの部屋もぴったりで、なんだか店主の“お宅”に遊びにきたみたいな感じまでして。
什器は元々あるものを活用させてもらったり、あとは各自で持ち込んだり。『あるものでいい具合に』というのが得意な方が多かったし、そういうことに手間を惜しまないというか、好きな人が多かったこともあると思います。」
金沢小町さん(左)とオヨヨ書林せせらぎ通り店さん(右) 「縁側に椅子を置いておいたら、みんな自然とそこに座って、お弁当食べたりワインを飲んだりしていて。その光景がなんだかすごく良かったんです。」 開いたら、良さを共有し合える人達がいる
「『あんなボロボロのところでイベントするの?』と驚く方もいらしゃったけれど、少なくとも今回出店してくれた方も、来てくださった方も『中に入れるだけで嬉しい』という人が多かったように感じています。
共通していたのは『新しい方が良い』という価値観じゃないということ。『いっぱい売れれば良い』とかじゃなくて 『そこでの時間を愉しむ』とか、そういったことを大事にしている人たち。そもそもそういう気持ちがないと、花を生けるための大きな壺を、わざわざ運んできたりできないですよね(笑)。
数値化されない価値観というか、それが全てに繋がっているような気がします。」
Photo by Nik van der Giesen オヨヨ書林せせらぎ通り店さんによる朗読会 atelier KiUさんのワークショップ 街として、建物を住み継いでいく
「木造のものって、部分的に直しやすいつくりになっていて、『修理しながら住んでいく』ということに本来は適している素材だけれど、今は『代々同じ場所に住む』ということ自体が減ってきているからなかなか難しいですよね。でも気に入った人がいれば、親族じゃなくても住み継いでいくことができるかもしれない。
皆が皆、古い建物が好きなわけではないけれど、洋館を公開したらその良さを分かって、こうして共有できる人たちがいる。そのことがだけでも心強いなぁと思います」
Photo by Nik van der Giesen 「いろんなものが街として残っていったらいいですよね。歩いていたらいきなり洋館があるとか、すごく素敵じゃないですか。いろんなものが残って、混ざり合って、良い具合になっていったらいいなぁと思っています」
(お話:2022年8月)
2日間多くのご来場いただきありがとうございました! ※金沢R不動産では、引き続き「歴史的資源を活用した観光まちづくり事業」として、この洋館を活かした空間実験をしながら、検討していきたいと思います。