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2022.1.19
Rトピックス

大手町洋館 歴史的空間レスキュー作戦

小津誠一
 

金沢R不動産が取り組む、歴史的空間の保存再生・活用へと繋げる「歴史的空間レスキュー作戦」とは?
昨年秋に開催した「大手町洋館見学会」の事例からご紹介します。
歴史的空間を活用した新たな事業展開にご興味のある方も、歴史的物件オーナーの方も、是非ご覧ください。


大手町洋館のメイン応接室、美しい空間は雨漏りにも優る。(もちろん修復しますが。。)Photo by Nik van der Giesen
大手町洋館見学会を開催。見学者約950名集う!!

見学会告知ポスターと当日の様子

昨年10月、金沢中心部の大手町にて、建物を守る目的で外観のみの修繕工事を終えたある洋館の見学会を開催、週末の二日間で、予想を遥かに超える約950名もの見学者が集まった。
コロナ感染対策で入場制限をしていたのでピーク時には一時間も待って頂くこととなった。それにも関わらず、見学を終えた方からは、口々に「良いモノを見せてもらった」「すばらしい体験だった」「この建物がどう使われるのか楽しみです」「お金を払ってでも体験できる建物にしてほしい」「〇〇な施設になったら嬉しい」など、大変な好評をいただき胸をなで下ろしつつも、こんなにも多くの人が古い建築に興味を持ち、今後の活用について懸念されていることに、僕たちも感動することになったのだ。

参加いただいた沢山の方々、ありがとうございました。また、ご来場いただいたのに時間の関係で断念された方々には、この場を借りてお詫びを申し上げたい。

金沢R不動産としては、なんとか新たにこの建物を活用いただける方を探し出し、この歴史的空間を再び体験いただけるような活用へと導いていきたい。そんな思いをさらに強くすることになった。
この建物を活用した事業に挑戦したい方がいらっしゃれば、ご連絡、お問合せをお待ちしています。(コラムの文末からお願いします。)

大手町洋館:旧山田詩朗邸とは

「金沢市史資料編17巻」これまで未調査のため内部は不明とされてきた。

さて、まずはこの建物について簡単に紹介したい。
金沢城のかつての正面玄関にあたる大手門界隈(いまの大手町、尾張町)は、加賀藩主前田利家の金沢城入城以来、昭和初期頃まで金沢の賑わいの中心だった。特にこの大手町には、老舗商店主や医師を始めとする士業など、比較的裕福な層が趣向を凝らした建築を建て暮らしていた。戦災や自然災害から逃れた金沢なので、いまでも点在するそれらの建物がタイムマシンのように当時の街並みへと僕たちを誘ってくれる。


弊社で調査して作成した現況図。建物の把握はここから始まる。

その一つが、ここでご紹介する大手町洋館「旧山田詩朗邸」だ。
大正から昭和にかけて金沢大学医学部の教授を務めた山田詩朗さんが、ドイツ留学を経て、1933年(昭和8年)に自宅としてドイツのハーフ・ティンバー風デザインを取り入れ日本の伝統的木造技術や工芸的技術によって建てたものだ。かつて、敷地は今の倍ほどの面積があり、車寄せもある前庭もあり、まるで来賓を招く迎賓館や文豪が集う高級ホテルの様な佇まいだったという。
子供の頃にこの建物を幾度も訪ねたという工芸作家の方によると、いまではなかなかみられない、手間を掛け贅を尽くした建築で、記憶に焼き付くものだったという。

大手町洋館レスキュー作戦始動するが。。

書斎あるいは執務室として使われていたのだろうか。Photo by Nik van der Giesen

普段から、魅力的な建築や不動産を探索している金沢R不動産にとっては、垂涎もののこの建物、使われていない様子だったので独自に調査し、山田家の関係者に連絡を取り始めたのは2016年夏を過ぎた時期だったか。初雪が降る頃に売却の可能性が告げられ、すぐさま保存再生を前提に購入いただける方との出逢いを求めて、SNSを通して訴え始めた。クリスマスも過ぎた年末になって、購入希望者と面会する機会を得て、大手町洋館レスキュー作戦が始動したのだった。
早速、購入へ向けた交渉を始めたものの半年以上が過ぎて、突如、競争入札されることとなる。慌てふためくが、購入希望者には入札参加を即決いただき、僅差で落札が確定したのが2017年9月のことだった。落札の知らせを聞いた金沢R不動産担当者は涙ぐんでいたし、僕は小さくガッツポーズを決めていた。
年末に鍵が渡され、現オーナーとこの洋館を初めて体験したのは、年末も差し迫った夕方だった。懐中電灯に照らされた洋館内では、思わず声をあげる体験の連続だった。重厚なドアを開けると、レトロなホテルのような玄関に廊下、素材にこだわった豪華な洋室、彫刻がほどこされた手摺りのある階段、シンプルながらも素材を選び抜いた和室、ウィリアム・モリスを彷彿させる壁紙、舶来物と思われるデザインの陶器製の手洗いや便器、いまでも動くドアヒンジなどの真鍮製金物類など、それらが建築当初の姿のまま残されているのだった。


左上から時計回りに玄関、2階廊下、2階主寝室、2階和室」Photo by Nik van der Giesen

かなりの年月、雨漏りに晒されいたようで、いくつかの部屋にはダメージもある。それでも、躯体の状態は悪くないし、傾きかけた金澤町家を沢山見て来た僕たちからすると、十分に活用可能な建物だと確信した。
入札当日の朝、数字を上積みしていなければ、駐車場かマンションになっていたところだう。暗がりの中で、オーナーと握手を交わしながら、購入できて良かった。良い活用方法を考えて欲しいと思いを託されたのだった。

それから2年程掛けて、色々な活用アイデアを検討したり、複数の事業候補者に提案するなどして、ようやく事業化が一歩進む。近隣の金澤町家と連携した金沢版アルベルゴ・ディフーゾ(まちに点在するネットワーク型ホテル)の核施設として、オーベルジュとして再生活用することになった。事業計画やリノベーション設計も進めていたのだが、2020年春にコロナ禍の影響もあり、すべては白紙へと戻ってしまった。
長引く気配のコロナ禍のなかでは、次なる事業者捜しもままならず、時だけが過ぎていく。雨漏りを止め建物を守るため、またもやオーナーの即決の英断で屋根や外装の修復工事に着手することになったのだ。しかも、すべてが民間人オーナーの資金である。三たび、金沢に残る大旦那の気概を感じることなった。

2021年10月 立て続けの見学会開催

大手町洋館に続いて開催した金澤町家「野町町家構造見学会」、ニュー雑居ビル「里見町APARTMENT内覧会」、元建具屋の工具・家具「投げ銭蚤の市」

そんなヒリヒリするような紆余曲折を経て、今回の開催となった内覧会。それは、次なる事業候補者との出会いを求めると同時に、長らく非公開だったこの建物を一般の金沢市民や建築、不動産に関わる方へ公開することで、歴史的空間資源の活用への機運を醸成したいという思いを載せたものだ。だからこそ、好評を博した内覧会は嬉しかった。

ちなみに、金沢R不動産では、同月に3軒の建物の内覧見学会を企画している。この洋館のほか、空きビルをスケルトンで貸し出す内覧会、小さな金澤町家のリノベーション現場の見学会だ。いずれも、使っていない古い建物を調査して次の活用提案へとつなげていくサービス「古ビル調査室」「木造たてもの調査室」のご依頼をいただき、賃貸募集を開始するものだ。さらに、新たなオーナーが決まった元建具屋の金澤町家に残された品々などを引き取ってもらう蚤の市も開催した。


空き家対策モデル事業(国土交通省)として取り組む「木たて調査室・古ビル調査室」
なぜ、歴史的空間レスキューに取り組むのか

なぜ、僕たちはこんなにしてまで歴史的な建築物や古い建物をレスキューしようとするのか?
戦災や自然災害を逃れた金沢では、昭和25年(1950年)以前に建てられた金澤町家や洋館などが約6000軒残されている。近年、そうした町並みがつくる景観と、食やアート、伝統文化とが組み合わさって、金沢は評価されてきたと言えるだろう。
けれども、僕たちにとっては危機感が絶えないのだ。戦災や自然災害といった不可抗力的なチカラよりも、経済合理性を優先するチカラによって、今も毎年100軒以上のこれら歴史的な建物が壊され続けているからだ。それは金澤町家に限らず、金沢の町並みの大部分を構成する昭和25年以降の古い建物も同様だ。
僕たちは、歴史原理主義的に建物を冷凍保存したり、テーマパークのような懐古主義的な復元を求めているわけではない。金沢の文化的景観を壊して、全国一様なまちになってしまうことを心配しているだけなのだ。「金沢らしさ」というとても難しいイシューがあるけど、その「らしさ」について悩み考えながらも、大きな伝統の上に小さな革新を重ねながら、過去から未来へと連続していくまちになってほしいと願っている。そのために、歴史を背負った空間資源を残していきたいし、使いこなしていきたい。そう考えてこんな活動をしている。


左:山出保前金沢市長による「金沢らしさとは何か」(北國新聞社) 右:今も頼りに歩ける古地図「延宝年間金沢図」。大手町洋館は金沢城のご近所。
金沢の歴史的空間、まだあります!

さて、、金沢には、こういった歴史的な空間資源はまだまだ残っている。
訳あって、金沢R不動産のウェブサイトでご紹介できない貴重なロケーションの金澤町家、昭和のレトロビル、ちょっとしたアイデアで甦りそうな建物群や商店街まで。貴重な物件が貴方を待っています。
それらを活用したいという方、お待ちしています!
さらに、可能性のありそうな物件の所有者の方も、お問合せをお待ちしています!

歴史的空間で事業したい方、歴史的空間のオーナーの方は、お気軽にこちらからお問い合わせください。

■物件活用をご希望の方:
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