2017.6.29 |
金沢リノベーションまちづくりシンポジウム・レポート 第1回 今の金沢に感じる「違和感」。柳田和佳奈(金沢R不動産/E.N.N.) 「金沢という街は今、岐路にあるのではないか」。そんな焦燥感に駆られ、コーディネーターを馬場正尊さん、徳田光弘さんが務め、ゲストには倉石智典さん、岸本千佳さん、新田悟朗さんを迎え、2017年4月8〜9日にNPO法人・趣都金澤が主催した「金沢リノベーションまちづくりシンポジウム」(過去記事はこちら)。その様子を、数回にわたりレポートします。 【コーディネーター】 金沢R不動産の立ち上げから早10年。その間に北陸新幹線が開業し、街の景色も物件事情も、当時とはだいぶん変わってきました。ホテルの予約は取れないし、投資物件の問い合わせはひっきりなし。一見すれば景気が上り調子に見える金沢にそこはかとなく漂う「違和感」を、コーディネーターの2人は見逃しませんでした。まずは1日目のシンポジウムでの問題提起を、コーディネーターおふたりの言葉を中心に紹介します。 アンビバレンス(*)な金沢の今 *アンビバレンス…相反するふたつの感情が同時に存在する状態のこと。 馬場:金沢になんでこんなに人が来るのかというと、歴史とか伝統とか、これまで長い時間をかけて培ってきたもので人を呼んでいるんだと思います。にもかかわらず、新しい経済、新しい色のお金は、ある種それをぶっ壊す力学として働いている。本来なら、街の財産として残しておいた方が良い建物をぶっ壊して、ホテルとか土産屋とか、手っ取り早く収益が上がる建物やコンテンツを誘導してしまっているんですよね。要するに、これから長く人を呼べるであろうポテンシャルのあるコンテンツを壊しながら、速く稼げるものを次々投下している。「急いでつくっている」という言い方が適当だと思うんだけど。 馬場:色の違うお金がもたらす短期的な収益と、長期的な損失。この矛盾こそが今金沢が抱えているアンビバレンスなんじゃないかと思っていて。僕が覚えた違和感の原因は、どうもここにあるらしいということを考えながら、今日街を歩きました。 「スピード感の混在」 徳田:僕もようやくひも解けてきたんですけど、金沢の街には「スピード感の混在」があるんですよ。めちゃくちゃ速い開発のスピードと、ゆっくりとした時間の流れが混在している。僕は仕事で全国各地の街を歩いて見て回っていますが、今回の金沢の街歩きでは特にその違和感を持ちましたね。 馬場:せっかく400年かけて蓄積してきた歴史の貯金を、新幹線ブームの一発で全部食い潰してしまうのか?という恐怖感を、そこはかとなく皆感じているんだとは思う。10年前に「金沢R不動産」を始めるために、小津さんと僕らで金沢を歩いて回ったときに感じたワクワク感とは違う胸騒ぎが今回はありました。小津さんもこのシンポジウムはそういう問題意識から開催したんだよね? 資本という名の「爆弾」。 小津:徳田さんや馬場さんが今指摘してくれたようなスピードの話はひとつありますね。「今流行りのまちづくりの手法」みたいなのを導入して、大失敗している地方都市ってあるじゃないですか。そういう意味では金沢は昔からのんびり構えていて、「なんか今あれが流行っとるらしいけど、しばらく様子を見てみようか」という感じだった。若い頃の僕には、それがもどかしくてしょうがなかったんだけれど、今になってみればむしろ良策だったんだなと。「金沢は一周遅れのトップランナー」と、最近よく言われます。まちづくりはスピード感だけが大事なんじゃない、むしろゆっくりと腰を据えてのぞむことが大事なときもあるなと。 徳田:今の小津さんの話を受けて、スローシティー運動を思い出しました。ファストフードチェーンに反発したローマの人々が、スローフードを提唱したことを発端に、食べ物にとどまらず、その概念を「シティー」にまで拡張していこうとした試みで、人口5万人以下の都市でスローシティーを認定していくという運動だったんですけど。 「急いでつくる」に対する価値観 馬場:今回小津さんが、ゲストの倉石さん、新田さん、岸本さんの3人を呼んだ勘みたいなものの根源はどこにあるんだろうなぁと、さっきから考えていたんですけど、いくつか気づいたことがあるんですよね。 馬場:もうひとつの共通点は、3人とも「面倒くさいこと」をむしろ楽しんでいるところ。倉石さんとか、「簡単なテナントは受けません!」みたいな感じで、もうおかしいよね(笑)。ふつうの不動産屋からすると意味がわからないと思います。ただ、その面倒くさいことを、一緒にやる仲間たちと楽しんでしまっているというか。岸本さんもそうですよね、おじいちゃんおばあちゃんと若者をマッチングさせる次世代下宿事業とか、かなり手間がかかると思うけど、それを楽しんでいるとしか思えない。尾道は、バケツリレーでしか建材を運べないような物件(みはらし亭)をわざわざ改修している。 (第2回に続きます) |
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